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Your search : [ author:作者 姚錦波 え·高栄生] Total 90 Search Results,Processed in 0.094 second(s)
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11. 杭州路10号
ことしの夏は、重い夏だった。仕事がなくてぶらぶらしている日数が長びくにつれて、あてのない退屈な生活が、なんとなくあたりまえのようになっていた。もちろん、これは、あの日以前のことだ。それまでにもいろんなことがあったが、べつに自分を変えるほどではなかった。それは、人間だからしゃんとしているべきだと思う。だが、子供のとき母からあんなに沢山の「おはなし」を聞かせてもらったのに、いまだに一日じゅうだらだらし
Author: 于徳北 え·高栄生 Year 1988 Issue 8 PDF HTML
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12. 一分間
「彼が死んだのは、わたしのせいです」誰に聞かれても、彼女はこう答える。人目をさけることもしない、事実をかくすこともしない。ハッとするような美人、すべてはそのためなのだ。上品で、気高くて、世のそしりを買うほどに美しいから。雪のように明るい螢光灯がまぶしい。その銀色の光の下で見ると、彼の顔はキラキラ輝き、思いやりの心が伝わってくる。二十二になる青年が彼女を愛してしまった。それも、二十六歳の既婚の女性を
Author: 于国頴 え·高栄生 Year 1988 Issue 12 PDF HTML
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13. それもナンだし…
ちょうど退けどきに雨が降り出した。雨具を持ってこなかった老若男女十何人は、出るに出られずいらいらしながら事務室で雨がやむのを待っている。范迪古(フアンデイグ)はちゃんとレインコートを持ってきている。万一に備えて、用意周到でめんどうをいとわない范の、これは常備兵器だ。だが、さっき、コートを出してさっそうとここを出ようとカバンを開けにかかったその瞬間、それもちょっとナンだしな、という気がした。同僚を放
Author: 丁言 え·高栄生 Year 1989 Issue 2 PDF HTML
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14. 禁酒(戒酒)
酒が贈られてこなくなってはじめて、彼は自分もそろそろ退職[注释1]だな、と思った。案の定、予感はすぐにも的中した。退職後、もう二度と酒を飲むまいと誓った彼は、飲みたくなると、酒瓶が並んだキャビネット[注释2]の前に黙然と立って、過ぎし日の思い出の中に身と心とを遊ばせるのだった。それでも何度か、制しきれずに酒瓶を手に取ったこともある。しかし思い直してまたそっと瓶をおろすのだった。むかしはあんなにも楽
Author: 司玉笙 え·高栄生 Year 1989 Issue 5 PDF HTML
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15. 商売繁盛
夜更け。会議から帰ってきた夫が、枕辺で、“絶対秘密情報”を話したばかりに、ふとっちょおばさんは、もう眠れなくなってしまった。明日から石けんが値上がりする、というのである。ふとっちょおばさんは、通りに面して小さな雑貨屋[注释1]を開いているのだ。以前には、県の町に、一軒の飯屋、一軒の商店でこと足りていた。ところがどうだろう、今では、三歩あるけば一軒の飯屋、二歩あるけば一軒の小商店、という具合に、どの
Author: 李理 え·高栄生 Year 1989 Issue 9 PDF HTML
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16. 兄弟分
ピンクのネオン、空色の看板、まだペンキのにおいがするドアや窓。「得楽食堂」四つの大きい字が夜のとばりの中に輝いている。やせた若い男がその下にじっと立って通りをあちこち見ている。「ウン、あいつだ!さすが兄弟分だぜ」得ちゃん[注释1]は、食堂の前に立っているのが仲のいい兄弟分の楽ちゃん[注释2]だと分かると、さっきまで鉛をつぎ込まれたようだった両足に急に力が出て、パッと近づいて大声で呼んだ。「やあ!楽
Author: 張衛華 え·高栄生 Year 1989 Issue 10 PDF HTML
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17. 蘭草幽幽
尚義が人事庁の庁長を退いてからというもの来訪者は次第にまれになった。向かいのドア[注释1]の、新しく起用された林庁長のところは、それにひきかえ、門前、市をなしている。「これからは、私は静かな日々を送るのだ」尚はいつもこう思っている。尚と老妻は、ベランダに沢山の花を植え、かわいいマミジロを何羽か飼っている。これが鳴くと、深山の原始林にでもいるようで、二人はうっとりしてしまう。だが、ここは原始林ではな
Author: 方言 え·高栄生 Year 1989 Issue 12 PDF HTML
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18. 棋聖
鶏鳴鎮[注释1]には、技量にすぐれた人物が三人いる。書聖の屠三爺に茶聖の章三爺、それに棋聖の柳八爺。そのなかでいちばん名の知られているのは、やはり柳八爺だろう。象棋の打ち方は実に絶妙だ。いざ打ちはじめると、「馬」を走らせ、「車」をすすめ、「卒」を攻めると、「象」を飛ばし、アッという間に勝負を決めてしまう。相手は息つくひまもない。そのうち柳八爺はやぎひげをなで、相手の「帥」がにっちもさっちもいかなく
Author: 張記書 え·高栄生 Year 1990 Issue 2 PDF HTML
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19. 虚報(假报道引起的……)
この山里で、選挙で選ばれなかった郷長は、彼が初めてだ。いま、彼は、なんとも言いがたい複雑な気持ちで寝具をかたづけ、旅立ちの用意をしている。北京ジープが玄関の外で、出発を促している。二年前に農業大学を卒業したあと、彼は熱い思いを胸いっぱいに抱いて、この貧しい村にやってきた。自ら望んでのことだ。リュックに手提げのあみ袋。袋には歯みがきセット、せっけん、それに経済管理学の本が数冊入っている。きょう、彼は
Author: 石中元 え·高栄生 Year 1990 Issue 8 PDF HTML
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20. おまる
彼女はふと眼を開けた。とうとうと流れる水の音なのだろうか、それとも、土手の上からさわさわと風に吹かれてきた砂の音なのだろうか。彼女は耳をたてて聞きながら、彼の肩を軽く揺すった。彼はニコッと笑って眼を開けると、彼女をギユッと抱きしめた。「ねえー、聞いて、窓の外よ」彼女は息をこらし、耳をすます。庭で地面を掃く音が聞こえる。老人が何度もしわぶきをしている。アッ、しゅうとだ。「いかん、起きなきゃ」「あなた
Author: 李東東 え·高栄生 Year 1991 Issue 4 PDF HTML