酒が贈られてこなくなってはじめて、彼は自分もそろそろ退職[注释1]だな、と思った。案の定、予感はすぐにも的中した。退職後、もう二度と酒を飲むまいと誓った彼は、飲みたくなると、酒瓶が並んだキャビネット[注释2]の前に黙然と立って、過ぎし日の思い出の中に身と心とを遊ばせるのだった。それでも何度か、制しきれずに酒瓶を手に取ったこともある。しかし思い直してまたそっと瓶をおろすのだった。むかしはあんなにも楽...
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酒が贈られてこなくなってはじめて、彼は自分もそろそろ退職[注释1]だな、と思った。案の定、予感はすぐにも的中した。退職後、もう二度と酒を飲むまいと誓った彼は、飲みたくなると、酒瓶が並んだキャビネット[注释2]の前に黙然と立って、過ぎし日の思い出の中に身と心とを遊ばせるのだった。それでも何度か、制しきれずに酒瓶を手に取ったこともある。しかし思い直してまたそっと瓶をおろすのだった。むかしはあんなにも楽...