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Your search : [ author:巴金] Total 9 Search Results,Processed in 0.119 second(s)
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1. 英雄たちの中にありて
ある夜、わたしは「地下の家」を出た。空には星がキラキラ光つている。あたりは黒々とした木立の闇に包まれている。この山あいの谷間はまるで花園のようた。敵機の爆音はしだいに遠ざかつて消えていつた。夜は静まりかえつている。涼風がわたしのシヤツを吹きぬけてゆく。けれとも、わたしの心は暖かかつた。なぜなら、わたしは英雄たちのなかでくらしていうからだ。毎日、何か目に見えぬ力がわたしを前へ前へとおしやり、ある一つ
Author: 巴金 Year 1953 Issue 2 PDF HTML
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2. われわれは永遠にともにある
中国作家代表団が東京の羽田空港からとびたつとき、私はタラツプの最上段に立ち、ターミナル·ビルのデツキにならぶ無数の親しい顔とはげしくうち振られる手を眺めながら、ひつきりなしに「さようなら!」と声をはりあげて叫んだものだつた。いくどか両手を振つた私は、タラツプを降りてデツキに駆けつけ、もうしばらく友人たちと一緒にいたいと思つた。しかし、早く座席につくようにとすすめられ、タラツプも取りのけられてしまい
Author: 巴金 Year 1961 Issue 7 PDF HTML
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3. 映画「松川事件」をみて
最近、進歩的な日本映画「松川事件」をみた。それから数日というものは興奮のうちにすごした。「松川事件」のたたかいが勝利してから、あのむごい迫害と恥知らずなでっちあげの場面が夢魔のようにわたしの心をさいなんだ。しかし、わたしの耳にはいつも、高らかな日本人民の声がきこえていた。「もう二度とこんな事件をおこさせない!」と。映画の語るすべてについてわたしはよく知っている。そこに登場する人びとも知っているし、
Author: 巴金 Year 1962 Issue 4 PDF HTML
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4. 青野季吉先生を憶う
何度もわたしの名をよばれる……いつの間にかストーブの火は消えたらしく、部屋の中はうすら寒い。本から目をはなしたわたしは、夜のふけているのに気づいた。あまりの静けさにとまどっていると、汽車の汽笛が聞こえ、やがてレールの上を走る車輪の音が聞こえてくる。だがそれもつかのま、ふたたびもとの静けさにかえる。わたしはタバコに火をつけた。吐きだしたタバコの煙をぼんやりながめ、疲れた頭を休めながら、一方ではものを
Author: 巴金 Year 1962 Issue 5 PDF HTML
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5. たどってきた道
作家はそれぞれの道をとおって文学にちかづいているので、各人には各人の経歴がある。もしもこうした話をのこらず書くとしたら、おもしろい作品がたくさんできるにちがいない。きよねんの三月、さくらの花のさくころ、わたしは東京でひとりの老作家をたずねた。話は創作のことにおよんだ。その人はわたしが最初の作品をフランスで書いたことをきかされると、つぎのような話をした。自分はフランス留学時代に病気にかかり、医者にみ
Author: 巴金 Year 1962 Issue 6 PDF HTML
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6. 富士山と桜
富士山は永遠だ最近、東京発のロイター電で、日本の科学者のなかに、富士山が「崩れ」て「その美しい円錐形が失われる」のを心配しているひとがいるというニュースを読んだ。「崩れる」といっても「頂の一角がくずれる」だけで、しかも三十年から五十年さきのことなのだが、それでもこうした「予言」を聞くのはあまり楽しいことではない。わたし自身は、そうした外国通信社のニュース·ソースにはあまり信を置いておらず、このよう
Author: 巴金 Year 1962 Issue 10 PDF HTML
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7. 「春の中の秋」のことなど
去年の夏、スウェーデンの文学者二人と会った。スウェーデン語の本を贈られ、見てみると、わたしが大分前に書いた『春の中の秋』の訳本である。一九七二年の出版だったので、意外だった。その頃、わたしは林彪や「四人組」から仕事を奪われ、公民としての権利さえ持っていなかったのだ。主な理由はわたしの書いた「悪書」十四巻である。「害毒を広くまき散らした」というのだが、その中にはこの中編小説『春の中の秋』も入っていた
Author: 巴金 Year 1979 Issue 7 PDF HTML
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8. 私の期待
今年五月に四十七回国際ペン大会が東京で開かれる。このたびの、空前の規模で行なわれる各国作家の集会では、他の議題以外に日本文学の成果と世界への影響が討論される。今回の各国作家の大会がわれわれの友好的な隣邦で行なわれることを、中国の作家はひじょうに嬉しく思っている。この二年ほど、私は体の調子が悪く、長らく入院していて、書き物をしたり出歩いたりが不自由である。昨年末、私の老友で、日本ペン·クラブ会長の井
Author: 巴金 Year 1984 Issue 5 PDF HTML
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9. 祖國と次の世代の幸福のために
歳の瀨がおしつまつてくると、なんだか氣持もたのしくなる。ひひとして舞いおちる雪にも、燃えさかるストーブの焰にも、咲きほこる臘梅の花にも、なんとはなしに正月の近ずいていることが感じられる。五つになるわたしの子供は、今日もいちにち遊びつかれて寢床にもぐりこんだ。そしてにこにこしながらこんなことを話しかける。『もうすぐお正月がくるね。うれしい!
Author: 巴金(パーチン) Year 1956 Issue 1 PDF HTML