たしかそのにおいは、もっと濃厚に立ちこめていたはずだった。無数の人々の汗や息、熟れた果物、薫製肉……。雑多なものが溶け合った、混沌としたにおい。けっして気持ちの良いものではないのだけれど、なぜかそれを嗅ぐたびに私の心は浮き立った。たぶんそのにおいが、どこかで旅の記憶と結びついているからだろう。しかし、久しぶりに北京駅を訪れてみると、そのにおいの存在感は随分薄くなっていた。私はなんだかはぐらかされた...
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たしかそのにおいは、もっと濃厚に立ちこめていたはずだった。無数の人々の汗や息、熟れた果物、薫製肉……。雑多なものが溶け合った、混沌としたにおい。けっして気持ちの良いものではないのだけれど、なぜかそれを嗅ぐたびに私の心は浮き立った。たぶんそのにおいが、どこかで旅の記憶と結びついているからだろう。しかし、久しぶりに北京駅を訪れてみると、そのにおいの存在感は随分薄くなっていた。私はなんだかはぐらかされた...