兪丹はきょうはほんとにきれいだ。駅前広場の雑踏の中で、ひときわ目立つ白っぽいスーツが、遠くから、雪の塊りか、ひとひらの雲のように、軽やかに近づいてきた。ひと息ついた頬が少し上気して、いつになく興奮している。妻がその肩を抱いて、互いに別れを惜しんでいる。「いよいよ行くのですか」私は、われながら全くばかばかしいことを言った。「ええ」兪丹は、ちらと細い雨足を見上げ「雨でも、風でも、ただまっしぐら」といっ...
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兪丹はきょうはほんとにきれいだ。駅前広場の雑踏の中で、ひときわ目立つ白っぽいスーツが、遠くから、雪の塊りか、ひとひらの雲のように、軽やかに近づいてきた。ひと息ついた頬が少し上気して、いつになく興奮している。妻がその肩を抱いて、互いに別れを惜しんでいる。「いよいよ行くのですか」私は、われながら全くばかばかしいことを言った。「ええ」兪丹は、ちらと細い雨足を見上げ「雨でも、風でも、ただまっしぐら」といっ...