それまでわたしの中国に対する関心は、全くなかったといっていい。一九五三年の始め頃、わたしは古本屋で一冊の漢詩入門書を手にした。その序篇に次のようなことが書いてあった。「漢詩·漢文を度外視して、日本の言語や文化を考えることはできない。上古の日本には文字がなかった。文字のない所に文化は存在しない。文字というものを知らぬものが、始めてそれを知ったときの驚きは、おそらく現代のわれわれの想像もつかぬものであ...
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それまでわたしの中国に対する関心は、全くなかったといっていい。一九五三年の始め頃、わたしは古本屋で一冊の漢詩入門書を手にした。その序篇に次のようなことが書いてあった。「漢詩·漢文を度外視して、日本の言語や文化を考えることはできない。上古の日本には文字がなかった。文字のない所に文化は存在しない。文字というものを知らぬものが、始めてそれを知ったときの驚きは、おそらく現代のわれわれの想像もつかぬものであ...