一十年の動乱が終って始めての中秋節の夜だ。私は明月を仰ぐにつけても、今はもう会えない人びとがしのばれてならず、渡る風の音に悲哀をさそわれていた。この数年、ひとり静かにしているときなど、中秋節に亡くなった母のことをよく思い出す。ほそおもてで、やせぎすな姿かたち、話し声、笑い顔、貧苦の生涯、ひっそりと生れてきて、ひっそりと去った母だった。児ヲ養ワザレバ父母ノ恩ヲ知ラズ、というが、自分自身が相当の年にな...
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一十年の動乱が終って始めての中秋節の夜だ。私は明月を仰ぐにつけても、今はもう会えない人びとがしのばれてならず、渡る風の音に悲哀をさそわれていた。この数年、ひとり静かにしているときなど、中秋節に亡くなった母のことをよく思い出す。ほそおもてで、やせぎすな姿かたち、話し声、笑い顔、貧苦の生涯、ひっそりと生れてきて、ひっそりと去った母だった。児ヲ養ワザレバ父母ノ恩ヲ知ラズ、というが、自分自身が相当の年にな...