去年のことである。空には中秋の明月が高くかかり、大通りも横町もシーンと静まりかえった、ここハルピン市の一画―太平区延華通り四十四番地の、とある家の中庭に通じる木戸が、ぎーっと音をたてておしひらかれた。数名の若い娘さんがしのび足で入ってきた。この家に住むのは三十一歳の焦旭昆さんと七十八歳になる彼の母とのふたり。焦さんは、半身不随のためにベッドに十年間も寝たきりだった。「誰をおさがしですかね?」とつぜ...
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去年のことである。空には中秋の明月が高くかかり、大通りも横町もシーンと静まりかえった、ここハルピン市の一画―太平区延華通り四十四番地の、とある家の中庭に通じる木戸が、ぎーっと音をたてておしひらかれた。数名の若い娘さんがしのび足で入ってきた。この家に住むのは三十一歳の焦旭昆さんと七十八歳になる彼の母とのふたり。焦さんは、半身不随のためにベッドに十年間も寝たきりだった。「誰をおさがしですかね?」とつぜ...