昨夜ひと雨降って洗われた朝の空気の中に、いまさしはじめた日の光りがなごやかだ。建設現場に通じる広い自動車道路のぬかるみを、五十すぎのおばさんがおぼつかない足どりで歩いていく。おばさんは〈二一八現場〉の守衛詰所のところまで来ると、重そうな手さげかごをおろし、ハンカチで藍色のひとえ上着のほこりをはらってから、竹造りの門のそばに立っている守衛の老人に、「二一八現場は、こちらでしょうか」とたずねた。「そう...
Please login first!
昨夜ひと雨降って洗われた朝の空気の中に、いまさしはじめた日の光りがなごやかだ。建設現場に通じる広い自動車道路のぬかるみを、五十すぎのおばさんがおぼつかない足どりで歩いていく。おばさんは〈二一八現場〉の守衛詰所のところまで来ると、重そうな手さげかごをおろし、ハンカチで藍色のひとえ上着のほこりをはらってから、竹造りの門のそばに立っている守衛の老人に、「二一八現場は、こちらでしょうか」とたずねた。「そう...