わたしは窓ぎわの座席に座つていた。そとはどんよりとした花曇り。もうまる半日というもの、汽車は黄土高原の谷間をぬうようにして走りつづけている。黄土高原地帶特有の洞窟住宅の入口に近く、今を盛りと咲きほこる一本(ひともと)、二本(ふたもと)の桃の花が、夕暮れのうす闇のなかに、ひときわ匂(にお)やかな紅を点じている。高原のそこここに高く低く散在する麦畑のやわらかな緑には、手を伸ばしてそつと撫でてみたいよう...
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わたしは窓ぎわの座席に座つていた。そとはどんよりとした花曇り。もうまる半日というもの、汽車は黄土高原の谷間をぬうようにして走りつづけている。黄土高原地帶特有の洞窟住宅の入口に近く、今を盛りと咲きほこる一本(ひともと)、二本(ふたもと)の桃の花が、夕暮れのうす闇のなかに、ひときわ匂(にお)やかな紅を点じている。高原のそこここに高く低く散在する麦畑のやわらかな緑には、手を伸ばしてそつと撫でてみたいよう...