一その日の朝、めずらしく野良は靜まりかえつていた。陽はもうかなり高かつた。が、野良に出て働く者は誰もいなかつた。村人たちはみんな村の通りや町に出る道にあつまつてガヤガヤ言つていた。手提籠をかかえたり、袋をかついだり、一輪車をおしていたり、なかにはゴムタイヤの馬車をひいているものもいたが、みんなこれから町の市(いち)に出かけようというのだつた。小麦の取入れから夏の農繁期に入り、秋も深くなつたいままで...
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一その日の朝、めずらしく野良は靜まりかえつていた。陽はもうかなり高かつた。が、野良に出て働く者は誰もいなかつた。村人たちはみんな村の通りや町に出る道にあつまつてガヤガヤ言つていた。手提籠をかかえたり、袋をかついだり、一輪車をおしていたり、なかにはゴムタイヤの馬車をひいているものもいたが、みんなこれから町の市(いち)に出かけようというのだつた。小麦の取入れから夏の農繁期に入り、秋も深くなつたいままで...