砲声のとゞろくなかを、雪が降りつき、ふたゞび朝鮮の野山をうずめつくした。朝鮮戰爭も三年目に入つた。わたしは、この朝鮮職場でふたゝび愛する中囯人民義勇軍の戰士たちと顔をあわせた。彼らは愛する祖囯なあとにして、もうまる二年になる。この二年間に、彼らはどんなに苦労をしたことだろう。二年といえばそれほど長い時間ではない。けれども、このあいだにかす知れぬ戰士たちの手にマメだらけになり、ゴつゴつとふしくれだつてきた。彼らは二本の腕で東海岸から西海岸につらなる山々をきりひらき、地下の長城を網に拠つて、まだ生きのこつている野獣どもを打击しなやましているが、やはりこの同じ長城の上にたつて遠く北方にまなこをはしらせる―そこは私たちの祖囯だ。
祖囯―もうはなれている戰士たちにもとつて、それはなんと人をひきつけるものであろう。祖囯の話がもちだされると誰でもよくおふくろのことをかんがえたり、妻や友人のことをかんがえる、だが彼らはもつと夢中になつて、あることを話し合つている。そいつかみんなが話している。どこでも話している。硝煙のたちこめるまがりくねつた塹壕という塹壕のなかではなしているのだーそれは祖囯の建設についてだ。
祖囯のこゝ二、三年らいの驚天動地の変化、人々はをどんなにかふろいたゝせたことだろう!わが戰士たちが鴨緑江をわたつたとき、彼らに眼をみにらせ、彼らをはげしい怒りにもえたゝせ、祖囯をまもるために、朝鮮人民なたすけるために、わが身を投げだして斗わせたものが、アメリカのけだものどもの朝鮮にたいする非人道きわまる暴虐行爲であり、あの廃墟であり、あの血と炎であつたとするならば、こんにち、戰士たちの全身にいつそうはげしく、新しい無限の力をわきたゝせているのは、祖囯の建設が、日一日と立派になつてゆくその姿が、新しいうつとりさせるような美しい光景が、彼らの心をひきつけ、もえあがらせている―そうだ。ほんとうにもえあがらせているからである。
成都と重慶をむすぶ成渝鉄道が開通したといううれしいニュースが、朝鮮職場につたわつたとき、四川省生まれの戰士たちはとくにわきたつた。行軍中の戰士たちはヤンコー踊りをはじめ、陣地の戰士たちは、かゝえもつた銃身をたゝきながら、ふるさとの歌ものがたり―「金銭板」な歌いたした。戰士のひとり―楊囯明の家は成渝鉄道の沿線にあつたり彼はしんみりした口調で話しはじめた。
「おれの家のまえには小さな川が流れている。子供のころ、おれはよく草刈や薪拾いのきかえりに、小さな立札が二本ぽつんと両岸に立つているのなみかけたものだ。それになんでも威渝鉄道というのをつくるための立札だというはなしだつたよ………それから二十何年かたつて、おれもすつかり大きくなつたころには、その立札はもうくさつてボロボロになつていた。おやじも鉄道敷設だといつて囯民党の反動どもにかりだされ、さんざん苦しめられたあげくとうとう死んでしまつ六〇だが成渝鉄道などというものは誰も見たことがないんだ。………それが解放されてまだ三年にもならぬうちに開通するなどと、おれたちのうちいつたい誰がそんなことを考えたことがあるだろうか?おれはこのごろよくこんな夢をみるんだ………家のまえの川にすばらしい鉄橋がかゝつている、汽車がもくもくと煙をはきながら向う岸からやつて來る……そいつなおれのおふくろが、新調の着物を着てじつとながめているんだ!」
李志軒という同じ四川省生まれの戰士が、そのとき横からひつたくろようにして話しだした。
「そうだ、おれも夢なみたぞ、祖囯の汽車に乗つて東に行つたり、西に行つたりしているうちに、いつの間にかその汽車が成渝鉄道を走つているんだ。たいしたものだ。成渝鉄道はよそのどの鉄道よりもずつときれないだ。汽車はどんどん走つてとうとうおれの家から六里ばかりはなれた駅でとまつたよ。そこでちよいと窓ごしに外を見てみたら、すつかり変つていたぞ。おれが家を出たときは、そこはまだ荒ればてた草つ原で、労働者たちがそこで草ひきをしていたんだが、いまはどうして、いつの間にか鉄道の付近いちめんに三階建ての建物がすらりと並んで立つているではないか!工場の煙突は林のように立ちならびもくもくと煙を吐いている。おれが夢中になつて眺めていうと、ふいに『おい、もう歩哨のばんだぞ』という声がしたので眼をあけてみたら班長さんだつたよ………」
―これは夢である。だが夢ではないのだ!それに前進しつある祖囯の眞実の姿だ。わが戰士たちは、はげしい戰斗のあとでちよつと一ねむりする間にも、祖囯と自分のふるさとの現在の姿に思いをはせ、未來のうるわしい姿な夢にえがいているのだ。
ある日、わたしは交通壕にそつてある陣地のほうに歩いていつた。そのととき、前方の洞窟のなかゝら、重そうなハンマーの音とヨイシヨ、ヨイシヨというかけ声がきこえてきた。それにまじつて二つの歌声がたがいちがいにひゝいてくる。
「そらきたどつこい煉瓦を一枚!」
「よしきたどつこい瓦を一枚!」
「もひとつどつこいネジ釘一本!」
「よしきたどつこい煙突一本!」
声をたよりに洞窟のなかに入つてみると、二人の戰士がかたい岩に穴を掘つている最中だつた。さつきの歌声は、この二人がかわりばんこに歌つていたのだ。
わたしはたすねた。
この外に客家語、潮州語、ヴエトナム語、ビルマ語、インドネシア語、シヤム語の放送あり。